始発駅に電車が入ってきて、やがて アが開くと、並んでいた客たちは目 色を変えて座席になだれ込む。自分 さえ座れれば、他人のことはどうで よい。客たちの振る舞いはなかなか 早く、賢い。
ホームで並ぶというルールは、共同 の道徳から来ている。この道徳を言 たり守ったりさせているものは損得 の判断、つまり知性だと言える。ホ ムのような場所で利己的に振る舞う とによる身の危険を知性はよく知っ ている。だから、私たちはホー ムで行儀よく並ぶ。ドアが開くまで 我慢して並ぶのである。
電車で席を譲ることと、ホームで並 こととは本質的に違う。自分の利益 考えて席を譲るのではないし、「お 年寄りに席を譲りましょう」という 示に従って譲るのでもない。言葉の い何かしらの内なる声に引っ張られ 、人は自発的に席を譲るのである。
①それは共同体に道徳をもたらす元 力であり、この力にはまだ言葉がな 。この力は、「人間が生きていくに は共同体が要る」という事実から生 れている。この力は潜在的ではある 、抽象的ではない。そこから知性を 越えた「仲間を助けよう」という本 的な欲求が突然生じるのである。群 の中に生まれ落ちた人間という知性 動物の②倫理の原液が正にここにあ 。
(前田英樹「倫理という力」より)
問1 ①「それは」とあるが、何を指して るか。
1 知性
2 損得の判断
3 内なる声
4 倫理

問2 ②「倫理の原液」とあるが、その説 として正しいのはどれか。
1 個人の心の中にある社会の役に立ち いという欲求である。
2 人を含む生き物が自分の身を守ろう する自己保存の本能である。
3 人間という知性動物がもつ、集団に 応しようとする欲求である。
4 集団を作ってしか生きてこられない 間の心に潜む、相互扶助の欲求であ 。