①私は手塚治虫の天才性は、何より その「さかさまのストーリーテリン (注・物語を語ること)」にあると 考えている。

「生きることの意味は何か?」とい 問いに答えるのが難しいのは、答え 無数にあって収拾がつかないからで ある。手塚はその問いに答えるため 、「死ぬのを禁じられた人間たち」 主人公とする『火の烏』を描いた。 人間が想像しうる最悪の事態とは、 べてのものが移ろい消え去る中で、 のれひとりが「不死」にとどまるこ とである。手塚治虫は『火の鳥』の でその「死ねない恐怖」を執拗に描 た。そうやって手塚が導き出した結 論は、涼しく平明なものである。そ は②「人間は死ねるから幸福なのだ ということである。

人間は限られた時間に封じ込められ 一度壊れたら二度と元に戻ることが く、一度失ったら二度と出会えない ものに囲まれている。私たちがおの の「生命」をいとおしむのは、それ この瞬間も一秒一秒失われているこ とを私たちが熟知しているからであ 。この「すべては消滅し、私たちは ず死ぬ」という事実そのものが、実 は人間の幸福を基礎づけているので る。手塚が私たちに教えようとした は、そのことである。
(内田樹「街場の現代思想」より)
問1 ①「私は手塚治虫の天才性は、何よ もその「さかさまのストーリーテリ グ(注:物語を語ること)」にある 」とあるが、どこがさかさまなのか
1 奔放な想像力を発揮して、普通の人 考えない世界を描くこと。
2 普通の人が価値ある考えることを完 に否定したストーリーを描くこと。
3 「生きる意味」を問う時、人が死ね い場合を想定したストーリーを描く と。
4 常に物事は移ろい消え去る宿命であ という視点からストーリーを描くこ 。
問2 ②「人間は死ねるから幸福なのだ」 は、どういうことか。
1 「死ねない恐怖」は「死の恐怖」よ 大きいから。
2 死がなければ生はなく、不幸がなけ ば幸せもないから。
3 幸福だったかどうかは、死の直前に ってはじめてわかるものだから。
4 限りある命だからこそ、命の輝きも り、生の喜びもあるものだから。