よく、「詩を書こうと思っても、語 が貧弱で……」と言う人がいる。私 つねづねそういうことがあり得うる ものかどうか( ① )思っている 自分以外のどこかに「語彙」の宝庫 あるかのように聞こえるからだ。② 日常用いているありふれた言葉が、 の組み合わせ方や、発せられる時と 合によって、とつぜん凄い力をもっ た言葉に変貌する。そこにこそ、「 葉の力」の変幻ただならぬ現れがあ 、そこにこそ言葉というものを用い ることの不思議さ、恐ろしさがある いうことだ。なぜそういうことが生 るのだろうか。結局のところ、事が らは次の一点に帰着するだろう。つ り、我々が使っている言葉は氷山の 角だということである。氷山の海面 下に沈んでいる部分はなにか。それ 、その言葉を発した人の心にほかな ず、またその心が、同じく言葉の海 面下の部分で伝わり合う他人の心に かならない。私たちが用いている言 は、そういう深部をほんのちょっぴ り覗かせる窓のようなものであって 私たちはそれを覗き込みながら相手 奥まで理解しようと、たえず努めて いるのである。現代の作品を読む場 でも、自分が非常に感動したある作 を、他人が「なんだこれはつまらな い」と言い捨てるのは、その人には またま言葉の氷山の下側の部分の面 さが感じとれないからである。
(大岡信『詩・ことば・人間』<講 社>による)
問1 〔 ① )にはどの語が入るか。
1 おもしろく
2 疑わしく
3 腹立たしく
4 興味深く

問2 ②「日常用いているありふれた言葉 、その組み合わせ方や、発せられる と場合によって、とつぜん凄い力を もった言葉に変貌する。」とあるが 筆者はどうしてそういうことが生じ と考えているか。
1 言葉そのものが、時と場所によって 化する変幻自在の力だから。
2 言葉は、本来、不思議で恐ろしい力 ひめているものだから。
3 言葉の奥にある人の心が、相手の心 共鳴し合うことがあるから。
4 言葉は人と人がコミュニケーション るための一番大切な手段だから。