木を構成する細胞の一つひとつは、 いところでは寒さに耐えるように、 の多いところでは湿気に強いように 、微妙な仕組みにつくられている。 の小さな細胞の中には、人間の知恵 はるかに及ばない神秘が潜んでいる とみるべきであろう。それを剥いだ 切ったり、くっつけたりするだけで ①神のつくった微妙な構造までもが 改良されると考えたこと自体、近代 学への過信だったかも知れない。

②木を取り扱ってしみじみ感ずるこ は、木はどんな用途にもそのまま使 る優れた材料であるが、その優秀性 を数量的に証明することは困難だと うことである。なぜなら、強さとか 温性とかいったどの物理的・化学的 性能を取り上げてみても、木はいず も中位の成績で、最高位にはならな から優秀だと証明しにくい。

だがそれは抽出した項目について、 番上位のものを最優秀とみなす項目 のタテ割り評価法によったからであ る。いま見方を変えて、ヨコ割りの 合的な評価法をとれば、木はどの項 でも上下に偏りのない優れた材料と いうことになる。木綿も絹も同様で (  ア  )割り評価法で見ると最優秀にはな ないが、「ふうあい」までも含めた 維の総合性で判断すると、こんな優 れた繊維はないということは、専門 の誰もが肌を通して感じていること ある。総じて生物系の材料というも のは、そういう特性を持つもののよ である。

以上に述べたことは、人間の評価法 難しさに通ずるものがある。二、三 タテ割りの試験科目の成績だけで判 断することは危険だという意味であ 。(  ③  )今の社会は(  イ  )割りの軸で切った上位の人たちが 導的地位を占めている。だが実際に の中を動かしているのは、各軸ごと の成績は中位でも、バランスのとれ 名もなき人たちではないか。頭のい 人ももちろん大事だが、バランスの とれた人もまた、 社会構成上欠くことのできない要素 ある。だが今までの評価法では、そ いう人たちの価値は評価できない。 思うに生物はきわめて複雑な構造を つものだから、タテ割りだけで評価 ることには無理があるのである。

④科学技術の急速な進歩で、私たち すべての対象を物理的・化学的に分 すれば、それで事は足りると考えて きた嫌いがあった。だが生命を持っ ものは、たとえ木のような素朴な材 であっても、無機質のものとは違う もう一つの神秘な次元を持っている である。⑤いま私たちにとって大切 ことは、物から人に視点を移して、 発想の転換をはかることであろう。

木はそのことを黙って教えてくれて るように、私は思う。
(小原二郎「木の文化をさぐる」に る)
・ふうあい:繊維や髪などの、手触 た感触や見た味わい。
・肌を通して:自らの体験を通して
・バランスを取る:均衡を取る。
・事は足りる : 不足しないですむ。十分用が足りる

問1 ①「神の作った微妙な構造」とある 、それは具体的にはどんなことを指 か。
1 木も人も同じように複雑な細胞の組 合わせから作られていること。
2 木の細胞が寒いところでは寒さに耐 るように、雨の多いところでは湿気 強いように作られていること。
3 小さな細胞の中に人間の知恵のはる に及ばない神秘が潜んでいること。
4 木がどんな用途にもそのまま使える 質を備えていること。

問2 ②「木はどんな用途にも……、その 秀性を数量的に証明することは困難 」とあるが、どうすれば木の持つ優 秀さを知ることができるか。
1 物理的・化学的な分析
2 各項目の平均値からの分析
3 項目別のタテ割りの評価
4 ヨコ割りの総合的な評価

問3 ア、イに入る語の適当な組み合わせ どれか。
1 ア:タテ イ:タテ
2 ア:タテ イ:ヨコ
3 ア:ヨコ イ:タテ
4 ア:ヨコ イ:ヨコ

問4 ( ③ )に入る語はどれか。
1 てっきり
2 確かに
3 きっと
4 さすがに

問5 ④「科学技術の急速な進歩で、私た はすべての対象を物理的・化学的に 析 すれば、それで事は足りると考えて た嫌いがあった」とあるが、それを 言 で表す語はどれか。
1 細胞の微妙な仕組み
2 近代科学への過信
3 数量的な優秀性の証明
4 生物の持つ神秘な次元

問6 ⑥「いま私たちにとって大切なこと 、物から人に視点を移して、発想の 換をはかることであろう」とあるが 、筆者は何を言いたいのか。
1 近代科学の方法論では、木や生物系 材料の優れた特性は証明できない。
2 この社会では頭のいい人よりも、バ ンスが取れた人の方が大切だ。
3 人を二、三のタテ割りの試験科目の 績だけで判断する考えは改めるべき 。
4 タテ割り評価法からヨコ割りの総合 な評価法へと、物事の見方を変えよ 。